確かな声
暗い静かな空間に一匹の黒猫がいた。ずっとこちらを見つめている。
すると口を開いてこう言った。「助けて」
ジリリリ、ジリリリと目覚ましのベルが鳴り、今日もまた朝が来た。
重たい体を無理やりに起こしカーテンを開けた。外は蝉の鳴き声で騒がしい。思わずため息が出る。
最近はずっと同じ夢を見る。内容は起きた直後は覚えているのにだんだん薄れていき、「助けて」という言葉だけが記憶にある。
そんな日々を繰り返している。きっとまた今日も同じ夢を見るんだろうなと思いながら家を出た。
じめっとして息が苦しい熱帯夜。丘の向こうには月が見える夜の道を歩く。
なんだかよくわからないけれど、溢れて深い闇に零れ落ちてしまいそうだ。
「助けて」
またあの声が聞こえてきた。
深い闇を身にまとっているかのように黒い猫に、今日は手を伸ばして抱きしめてみた。
朝顔が元気に太陽を浴びて、急な坂を自転車で駆け抜けて、ふと家のベランダに目を向けると鈴の音の足跡があった。
ああ、なんだか今日は良い日が過ごせそうだ。